Season in the abyss

Q:鬱ってなんですか?
A:フォースの暗黒面。

人に聞かれたら本気でそう答えるだろう。
たかだか脳内の化学反応がバランス異常を起こしたに過ぎない病気だが、いったんわずらうと本来外向けに放出されるべき力が内向して、まるでブラックホールみたいにあらゆる感情や気持ちを虚無に還元してしまう。
吸い込まれた先には自分とよく似た者がいて、この種の病気をわずらった人間はきっと彼あるいは彼女と出会うだろう。そこで永い対話をするかもしれないし、黙ってお互いを見詰め合うかもしれない。そこに時計はないし、止める者などいないから、いつまでもそれは続く。それを止めよう、終わらせようとするのは本人次第だ。
そして永い永い対話や見詰め合いを終わらせた時、そこから立ち去ろうと踵を返した時に、はたと気付くだろう。彼あるいは彼女という存在は、病気になったから発現したという妄想の産物みたいなものではなく、それまで一度も面識が無かっただけであって、ずっと昔から静かにそこにたたずんでいた自分自身なのだと気付くだろう。そして自分が立ち去った後も、ずっとそこに居続けるであろうことに気付くだろう。鬱という現象が、誰もが持っている暗い暗い深淵を覗き込む行為であり、それは誰もがやりかねない行為なのだと気付くだろう。
いまの俺は、薬の力を借りてようやく深淵から引き上げてきたばかりなのだと思う。いまのこの状況が、心情が、深淵との対話の最中の息継ぎではなく、ずっと続くものであって欲しいと思う。